無難な人生か  愉しい人生か

           荒このみ             

 

中国の象徴である天安門に車両が突入し、大きな問題になっている。抑圧政策に苦しむ少数民族ウイグル族の計画的な事件だという。近代社会において民主化政策を怠れば、社会の矛盾に不満が湧き起こらないはずがない。それを中国政府はさらに弾圧して、強引に問題を解決するつもりなのだろうか。

だがこれは対岸の火事ではない。

「アイ・ウェイウェイは謝らない」というドキュメンタリー映画を見た。アイ・ウェイウェイ(艾未未)は、二〇〇八年、北京オリンピックの主要スタジアム「鳥の巣」を設計した一人で、建築家、キュレーター、美術家、社会・文化評論家である。東京の森美術館で開催された展覧会は大好評を博し、今日、世界の美術館がその展示を強く望むアーティストだという。その斬新で衝撃的で面白いインスタレーションは、社会批評に富み、わかりやすく、なおかつ美しい。

「鳥の巣」設計に最初は参加したものの、中国政府のプロパガンダにすぎぬと悟ったアイ・ウェイウェイは、開会式に出席しなかった。オリンピック直前の五月、四川省で大地震が発生し、小学校の校舎が倒壊し、五千人以上の児童が犠牲になった。政府関係者の不正行為による手抜き工事が原因だったという。被災地を訪れ、衝撃を受けたアイ・ウェイウェイは、鎮魂の作品を制作し、児童の名前を刻もうとする。ところが中国当局は、「国家機密」として死亡した児童の名前を明らかにしない。児童の親たちは追悼集会を開くことさえ禁止された。

政府の不正行為を暴き、ブログを利用して公表するアイ・ウェイウェイは、当局に監視される身となり、住まい近くに監視カメラが設置され、公安が行動を追跡する。警察暴力により殴打され、脳内出血を起こす。税務署は税金未払いとして巨額の追徴金を課してくる。それでもアイ・ウェイウェイは発言を止めない。なぜか。

「何もせずに無難な人生を送ることもできるだろう。だがそれでは人生が愉しくない」からだと。

著名な詩人だった父親アイ・チン(艾青)は、文化大革命の犠牲者だった。ウイグル地区の労働改造所に送られ、表現の自由を奪われる。精神的な死を体験する父親を見ながらアイ・ウェイウェイは育っている。

「保護法」のもとに情報を隠ぺいし、表現者を弾圧する政府に、果敢に立ち向かう人生こそ「愉しい人生」だと断言するアイ・ウェイウェイの姿勢に魂の強さを感じる。

 

映画「アイ・ウェイウェイは謝らない」

   (AI WEIWEI: NEVER SORRY)

 

1130日劇場公開予定